被害者E
中川×先輩 作品2
目が、覚めた。 惰性でそのまま起きようと力を入れた身体にずきりと痛みが走って、あまりの激痛に噛み殺し損ねた声が漏れる。 掛けられていた仮眠用の薄っぺらいシーツをギリッと握りしめ、両津はゆっくりと息を吐いた。 一回、二回と大きく吸って吐出すうちに、徐々に身体が痛みに慣れてくる。 静まる気配を見せ始めてようやく、何があったかを思い出した。 ‥‥‥中川の野郎ッ! 見回すこともない狭い室内に中川の姿はない。 傍らに脱がされた服が畳んで置いてあって。 暴れた時に乱れた室内はきちんと片付けられて、なごりと言えばひっくり返された湯飲みから溢れた茶が畳に茶色い模様を描いているだけになっていた。 「両ちゃんおはようー」 からっと晴れた夜勤の明ける朝、麗子がいつも通りの笑顔で出勤してきた。 両津にとっては、ようやくといったところか。 机に突っ伏していた両津を見て、麗子が怪訝そうな顔をする。 「なに?具合でも悪いの?」 「‥‥‥腰がな」 中川に強姦されました、なんていう本当のことなど言えるわけもない。 「また何か無理したんでしょう。両ちゃん」 いつものことでしょ、と切り捨てた麗子に、ほっとした。 確かに無理、だ。今回は自分の所為ではないが。 「あら?圭ちゃんは?」 奥の休憩室を覗き、そう問うた麗子の言葉に両津の肩がぴくっと揺れた。 目を覚ましてから今まで、派出所には自分ひとりで中川の姿はない。 勤務中だというのに何処に行ったのか知らないが、顔を見ることすら今この状態では嫌でそのまま放っておいた。 「‥‥‥外回りだ」 普段から勤務態度の悪い両津とは違って真面目な中川のこと、その答えにすんなりと納得したらしい。 そう、という返事が、いつも通りの声音で返って来た。 あと少しで勤務時間が終わる。 そしたらやっと家に帰れる。 何があったのかもとりあえず忘れて、寝れる。 じりじりと時間だけをやり過ごし終了まであと5分というところで、ゆらりと入り口に影が落ちた。 「あら圭ちゃん、おかえりなさい」 「麗子さん、ただいま」 けいちゃん れいこさん、ただいま 聞き馴染んだ声が、そう言葉に紡いだのが聞こえた。 けいちゃん‥‥‥ ‥‥けいいち‥‥‥‥ ‥‥‥‥なかがわ けいいち ‥‥中川ッ! がばっと身を起こし顔を上げた途端、自分を見下ろしている中川の視線とぶつかった。 いつも通りのプレイボーイのすかし顔の、だが目は笑っていない中川が目の前に立っていた。 「先輩。大丈夫ですか?」 薄く笑みを浮かべた口が吐出した言葉が、重苦しく巻き付いて来る様で。 絡んだ視線を外せないまま、両津は体温が一気に下がった様な錯覚に襲われた。 「ちょっと両ちゃん、大丈夫?顔色真っ青よ?」 心配そうに声をかけた麗子の言葉は、両津には届いていない。 ぐらぐらと揺れる頭の中で中川の声だけが響いている。 「何か駄目みたいですね‥‥‥帰り、僕が車で送って行きますよ」 「そう、それがいいわね。あ、もう時間よ?お疲れさまー」 「お疲れ様です。じゃ、先輩行きましょうか」 ぐい、と二の腕を掴み、中川は未だ脱力している両津を立たせると、半ば引き摺る様にして外に止めてある車に押し込んだ。 「‥‥ばッかやめろ!ひとりでかえっ‥‥‥ぐッ」 シートに押し付けられ、シートベルトを掛けられてようやく我に返ったのか、降りようともがき喚こうとした口を中川の手に塞がれると同時に、首筋にちくりと痛みが走った。 じわっと全身に痺れが広がり、呂律がまわらない。 ぐったりと脱力した両津を満足そうに眺めて、中川はドアを閉めた。 そして自分は運転席に乗り込むと、エンジンをかけてアクセルを踏み込む。 薄れゆく意識を振り絞って中川の方を向いた両津の目が前を見る中川の顔を捕らえ、その表情が酷く満足そうだと思ったところで、目の前が真っ暗になり。 「とりあえず、僕の家に行きましょうか。先輩」 その声はもう両津には届かなかった。 |
こーゆーのも書かないとAさんに怒られるのは何故でしょう‥‥‥。
ということで2本目です‥‥。
バタリ。