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 バタン。


 店の扉が音を立てながら押し開けられる。
 逆光を背にした人影がゆっくりと店に足を踏み入れた。


「よう、元気?」

 その場で立ち止まり、中に向かって声をかけた。
 店内にいた2人が愕然とした表情で振り返る。

「……て……め……」
「――――――」


「昼間っから何シケたツラ並べてんだ、お前ら」
 外はいい天気だぜ?
 戸口に立つ男がのんきな声で言い、背後に向かってひょいと親指を投げた。
「…………ば、か……ヤロ―――ッ!!」
 椅子を蹴り倒して立ちあがった青年が、戸口に立つ男に向かって叫びながら飛びついていく。
「…………ふぅ」
 テーブルに置かれたコーヒーカップの上に、疲れたようなため息が落ちた。
「いいコにしてたか?」
 首にしがみついている青年の柔らかなくせっ毛をぐしゃぐしゃとかき回しながら、男が耳元に低く囁く。
「うぅうううう―――っ!!」
 青年が獣じみたうなり声をあげながら、さらに強く男の首筋へとしがみついた。
「おい、苦しいって」
 今にも首を絞めかねない勢いで抱きつかれて、男が閉口したような声をもらす。
「てめえは……黙ってろ……ッ!!」
 震える声で叩きつけるように叫んだ青年は、相手の肩口に顔をうずめてぎゅっと押しつけた。
「はいよ」
 しょうがねえなと小さく笑んで、男が片手で青年の腰を引き寄せる。

「お帰り」

 聞こえた声に顔を上げると、見つめる双眸に出会った。
 少しだけ呆れたような、けれど穏やかな。
 変わらずに自分へと向けられる視線。

 それを見つめながら、速見の唇にゆっくりと笑みが浮かんでいく。



「―――――ただいま」


 明るい眼をした男が、晴れやかな笑顔で笑った。








 此処にお前がいなくても
 ひとりで立っていられるように。


 どんな時でもくじけることなく
 いつも笑っていられるように。




 I wanna hug You in the sunshine....




                                              ― FIN ―